なぜ間伐が必要なのか?

「たくさん苗木を植えるから、間伐する必要があるのだとしたら、最初から30年後、または50年後の適正本数だけを植えればいいのでは?」という疑問が生まれるかもしれません。人工林では、一定面積内に非常に多くの本数の苗木を植え、数年ごとに間伐をくり返し、木の成長に合わせて、その都度、適正本数を保つように調整していますが、近年その間伐ができなくなっています。

林業のことをよく知らない方からは、上記のような疑問が生まれるかもしれません。私も最初はそう思ったことがありました。しかし現実はそう簡単な問題ではなかったのです。

杉や檜、松などの針葉樹は、密集して植えることにより、まっすぐに育ちます。材として商品価値を持たせる為には、まっすぐな材が望ましいのです。まばらに植えられた杉や檜は下の方が太く、先端に行くに従って細くなります。木としては健全な成長とも言えますが、材としての商品価値は下がってしまうのが問題です。最初から間隔をあけて植林すれば、間伐の必要はありませんが、木はまっすぐに育たず、商品価値はなくなってしまうのです。

日本の林業の主役といえる杉では、1ha当りに、3000本もの苗木が植えられています。この本数が果たして、本当に適正なのかは別として、これが最終的には500~600本になります。つまり、約4/5は間伐しなくてはならないことになります。間伐といっても、一定年数を経た間伐材は、主伐材に準じる商品価値を持つものもありますが、しばらくは何の利益も生まない除伐の時期が続くのです。

杉の植林

ここで、杉の人工林をどのように作っていくのかを見ていきましょう。

まずは、植林ですが、この前に行わなくてはならないことがあります。『地ごしらえ』という、地面を覆っている枝や葉を取り除く作業です。

次に、3~4年の苗木を1haに2000本~3000本という単位で植えていきます。苗木を植えてから5~7年間は、下刈りという作業が続きます。まだ競争力のない杉の成長を阻害するツル植物や下草、広葉樹などを排除します。

7年を過ぎてもツル植物の排除は引き続き行われ、ようやく10年を過ぎると、今度は枝打ちという作業が必要になります。これは、木の下の方のある枝を取り払う作業です。木をまっすぐ成長させるため、また、節を残さないために行われる作業なのですが、むやみやたらに行えば木の成長力を阻害することにもなりますし、失敗すると木の皮が剥げたりするので、熟練を要する作業でもあります。

木の成長にしたがって、裾枝打ち、背丈打ち、梯子打ちと次第に高い枝を落としていきます。これが、30年生近くまで計5回ほど行われることになります。これを数千本、数万本単位で行わなくてはならないのですから、気が遠くなる作業ですね。林業がいかに人力を要求する仕事か、これだけでも容易に想像できますね。

枝打ち用の鉈と、のこぎり類…成長してくると梯子に登り、身体をロープで縛って、枝打ちを行います。山の作業は常に危険がつきまといます。枝打ちの行われていない杉の木は、民家の庭を開放した公園などで見ることができますが、そういった場所に生えている杉なので、枝打ちなどの手入れがされていない事が殆どです。杉とは本来これほどにも枝を付ける木なのです。

次がいよいよ『間伐』です。8~10年頃から、育ちの悪い木、枯れかかった木、あるいは育林木など、つまり育てようとしている木の邪魔になる広葉樹などを伐採していきます。除伐で伐採された木は、昔は薪などに使われましたが、現在は殆ど価値のないものになっています。

間伐は、その後も5年間隔程度に実施し、その都度10~25%が伐採されます。10年~13年目位までの間伐は『切り捨て間伐』と呼ばれ、除伐同様、切った木材は捨てられています。15年位になると、間伐材でも商品価値を持つようになります。土地の地味や日当たりにもよりますが、直径が12~13cm程度になるからです。

樹冠が接している状態では、地上に光が届きません。それが、木の成長を遅くさせ、年輪幅も均一になりません。適度に間伐を実行することで、健全な森林を維持することができると同時に、年輪幅も均一になるのです。そうして、40年~50年、あるいは70年程度で主伐ということになります。もちろん、70年もの間、丹誠込めて育てられた木は、高級建材として珍重されるはずですが、それすらも原木市場で買いたたかれているのが現状です。100本や200本の木の世話をするだけならそれほど大変そうでもないのですが、それが何千本、何万本という単位になのですから…気の遠くなる話ですね。

それほど、手をかけても報われないとしたら、間伐を行う意欲も失せてしまいますよね。あるいは、意欲はあっても予算不足で人手を雇えないということになってしまうのです。